Welcome to Astro-Folklore World

※これは大阪市科学館発行「うちゅう」誌への記事として 1995年に書かせていただいたものです.
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●世紀末の楽しみ? |
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世はオカルトな時代です.不幸な時代だと思いますが、天文民俗学にとっては、たいへん研究しやすい時代であると言えます.
なんといっても、フィールドの資料の量が違います.(注:天文民俗学の主なフィールドは書店であります.[さらに注:これは冗談です。本当のフィールドは人間が住んでる所です。])
天文民俗学のネタは,「星」に関係のある伝承や記述であり、分野は問いません.絵、文字、祝詞、童歌、あやとり等何でもござれ、重要なのはノンフィクションであることです.
20年前は古典・純文学全盛で、民俗学書などほとんど見られない冬の時代でした.10年前になると変わり種の歴史書が増え初め、5年前くらいから、新刊書のコーナーにキルヒャーっぽい怪しい表紙の伝承研究本がずらりと並ぶのを見て、われらの時代?の到来を確信いたしました.次々刊行される、資料度の高い荒俣宏っぽい本に囲まれ、今天文民俗学愛好家はとても幸せなのです.
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天文民俗学への道
別に道らしい道があるわけじゃないのですが....
(1).敬けんな宗教家なるべからず
天文民俗学と原始宗教は切っても切り放せないものですが、この学問?の性格上、神様も教典も史学の視点でめった切りにせざるをえません.特に星が出てくる説話が、どこの伝説を借用したかなどというのは重要ポイントです.
そういった話題に耐えられない方は、ちょっと向かないでしょう.
(2).かといって宗教ぎらいも困る
古代から現代まで、民間信仰の調査なくして、正確な星の伝承の解釈はできません.これはどの国でも同じで、しょっちゅう色々な神様を調べなければならないので、神様がきらいな方、というのも実はあまりむかないんですねえ.
(3).器用貧乏になるべし
どの研究もそうかと思われますが、
天文民俗学も広範な知識がものをいいます.どんな分野がいいかといいますとまず語学.英語、ラテン語、 アラビア語、できればドイツ語、ギリシャ語、さらに楔型文字のアッカ
ド語が読めればベストです(そんな人いないって).
あとは、歴史全般、 文化人類学、科学史、美術史、宗教史、建築学、地質学、暦学などです.
ちょっと前までは「天体力学」が、あるとよい知識の筆頭でした.内外 の古文書に登場する、膨大な天文現象の記録の真偽を調べるためです.
今は色々な天文ソフトが市販されていますが、5,6年前までは自分で計算するしかありませんでした.私も、まず数千年の過去に遡れる惑星軌道計算ソフトを作ることからこの道が始まりました.
というわけで、この道で惑星の位置略算式に詳しい人は、昔からはまっている人でしょうね.
(4).金は本につぎこむべし
星の伝説を集めた本は、もう出尽くしている感があります.で、ネタが命の民俗学ですから、別の分野の本から知られざるネタを掘り起こさなければなりません.ところが、たとえばロシア民話の本があるとして、星に関する伝承はぶ厚い本の中の2、3行です.しかし、必要ページだけコピーすると、前後の関係がわからず、理論の展開がしにくくなります.なるべく丸ごと1冊購入しましょう.本の優先順位は、服や車、CD等より高くなければいけません.
(5).腰は軽く
旅先はどこも重要なフィールドです.伝説集等には入らない小さな伝説によくネタがあり、書店の地元の本コーナーによい資料があることが多いのです.
美術展等も行くにこしたことはなく、腰の軽さは大いに役に立ちます.
(6).モチはモチ屋
天文民俗学の本家は民俗学・文化人類学・文化史であります.その道の専門家の研究は、資料数が多いですから正確です.天文民俗学のテーマでも、既に本家が資料調査を行っていることが多いので、まず先人の知恵を拝聴し、それから話を進めるのが道筋でしょう.モチはモチ屋ということで.
しかしモチ屋は、一般に天文計算に非常に弱く、天体の位置や見え方がからむ問題はさけて通る傾向があります.この辺につけこむすきがあるようです.
(7).現状
天文民俗学は、オリジナル研究にはとても手間がかかるので、今の主流はモチ屋が書いた本から星ネタを探して、それに解説を加えて天文界に紹介する、「紹介もの」が主流のようです.出不精の筆者は、苦労してオリジナルネタをとってこられる北尾浩一氏らには頭の下がる思いであります.
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本当の天文民俗学研究サイト
★星の民俗館__三上さんのページ。"ほしと民俗"再刊されました。
★星の伝承研究室__北尾さんのページ
★天狼星'Sホームページ__琉球の天文記録がいろいろ
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新分野開拓法
民俗学でネタにならない事物というのはないのでどんどん開拓しましょう.
・花言葉−スターオブベツレヘムという花、ご存じですか?
・あやとり−カロリン諸島やナバホインディアンの"プレアデス""天の川"と いった作品の美しいこと.ぜひとってみてください.
・パワーストーン−アマゾナイトは和名天河石.濃紺のラピスラズリにちらばる金を、古代の人は夜空と星にたとえたそうです. ..etc.
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君よ知るやイラクの丘
では世界の天文民俗学ネタを簡単にご紹介しましょう.
最もネタが埋葬されていると思われるのは、イラク〜シリアにかけての砂漠です.古代オリエント学者の見積では、古代の町の遺跡「遺丘(テル)」は推定1万くらいあり、そのうちの100〜200が発掘されたにすぎないそうです.
さらに、バビロニア〜アッシリア地区は史上最も星辰信仰が活発だったので「何か出る」可能性が高いと予想されるわけです.
しかし、このご時勢にイラクの砂漠に行くのはとても無謀ですので、とりあえず未解読の粘土版資料の解読を待つというのが楽でしょう.楔型文字資料は解読が難しいので、大英博物館所蔵のものだけでも8割が未解読です.1984年にシリアの史料からハレー彗星の記録が解読されましたし、今後も期待大です.
プラネタリウム関係者としては、シュメールの星座文献の発見が待たれるところです.メソポタミアの星座名は、公用語であるアッカド語ではなくシュメール語であるという事実があり、星座誕生の決着を見たいものです.
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深淵なるギリシャ神話
一見軽くみえるギリシャ神話は、実はとっても奥が深いのです.
たとえば、おとめ座の女神デメテルは、ゼウスよりも古い女神です.ポセイドンと共にエーゲ海で信仰され、B.C.1300年のミケーネ起源説、ペロポネソス半島起源説等があります.古代のデメテルは馬の首を持ち、グロテスクです.
おとめ座は、紀元前5世紀頃のギリシャの文学で「両手に麦の穂を持つ乙女」と表現されており、メソポタミアで長く受け継がれた「種の女神」「麦の穂」座からきたことは間違いないようです.
さらに、ヘレニズム時代に、天に昇った正義の女神アストライアの伝説が加わりました.このアストライア(星乙女)という素敵な名前の女神は、どこから来たのかはっきりしません.ある本によれば、B.C.6世紀まで北アフリカに栄えたリビュア王国の、リブラという正義の女神だといいます.しかし、北アフリカ沿岸の植民地都市は資料が少なく、謎ときはたいていここでつまります.
例をもう1つ.牡牛に化けたゼウスがさらってきたフェニキアの王女エウ ロペは、動物と一体となる神々=クレタ神話をギリシャに運んできました.
エウロペの夫となるクレタの王子アステリオンは、クレタの大神アステロイ アスの名をとっています.エウロペ=ヨーロッパという名も東方からきたも ので、アッカド語のエレーブ(日の沈む所)が語源ではないかとされています.
この説ではアジアもアッカド語アスー(日の出る所)からとなって説得力があ ります.
こんな感じで、ギリシャ神話の場合どんなワキ役をとりあげても背景物語 が延々と続いてしまい、きりがありません.
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謎のまま・エジプト
赤道を36のデカン(星座らしい)に分け、夜の長さを測ったといいますが、わかっているデカンはイシスの星シリウスとオシリスの星オリオンだけ (...と天文分野の本にのっていますが、エジプト学の先生にうかがったところ、ほとんどのデカンは同定されているそうです。ただ日本語でそういった本がでていないだけのようです。). セティ1世の墓の天井いっぱいに、動物や象形文字でこのデカンが描かれています.この図は「大英博物館2」(NHK出版)によい写真が出ています。また、ハトホル神殿にも1世紀にローマ帝国が作らせたデカンの図があるようですが、それにはローマ風に黄道12宮図が加えられているようです.
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全ての鍵はフェニキアにあり
イシスの夫オシリスの遺体が流れ着いた先がフェニキアのビュブロス.アフロディテーが誕生したのも、アルファベットができたのも、死海文書(死海文書を聖書の下書き、聖書が参考にした書物、などとする本が邦訳ででていますが、それらはうそで、小さなキリスト教の一派の独自の教典という解釈が一般的です。)
が見つかったのもフェニキアです.
フェニキアの星座はメソポタミアとギリシャを結ぶ重要な鍵で、特にメソポタミアにはないエチオピア王家の星座たちが、アダーマート(アンドロメダ)、カッシウペアエール(カシオペヤ)等として登場します.ペガスス座も、アッカド語シシュー(天馬)がペガ・スース(馬)となってギリシャ名に近くなっています.(この件実は詳細が不明.裏がとれてません.)
フェニキアはカナーンとも呼ばれ、アッシリア色の強い神話をもっています.しかし地域ごとに細かい神話が沢山あり、このへん調べると面白そうです.
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ネタの宝庫かもしれない・スラブ
スラブ〜ロシアの色々な部族では、それぞれ多くの天体神話を持っています.
太陽が彗星のひく馬車にのって空をめぐったり、明けの明星と宵の明星は太陽の兄弟だったり、楽しいものです.ある部族の神話におなじみの世界樹が出てきますが、この世界樹は北極星へとのび、その世界樹を軸として恒星が回っているというのです.すごいでしょ.日本語の資料が少なく、裏がとれないため、確実な話ができないのが残念なところです.
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大難関・アステカとマヤ
星関係の記述はとても多いのです.しかし、オルメカ、トルテカ、アステカ、マヤの関係がややこしく、どれも別の分化なのでいっしょにするとまずいし、その割に文字も彫刻もそっくりで区別しにくいし、複雑怪奇な暦の話はさけて通れないし、すぐ生皮をはがした生け贄の話が出て来るし、興味をもちつつ本格調査にはだれもが二の足をふむ難所です.
「..神官は日没とともに"星が丘"にのぼり、この山頂の神殿から天空に目をこらす.子午線を運命の星が横切るやいなや、神官は生け贄の胸に松明をかざす.これであと52年は平穏だ..」 吉野三郎「マヤとアステカ」より
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神話界唯一のお笑い系・インド神話
他の神話吸収合併型の傑作・インド神話は、同タイプのギリシャ神話と似て
います.ただし歴史の都合上、煩悩だらけの主役・デーヴァ一族が、実力で敵 のアスラ族にかなわないという異常な設定になっており、そこから生まれる抱 腹絶倒のエピソードの数々は、他では絶対に読めません.
インド神話の善悪の関係は、となりのイランの神話では、善がアフラ(アスラ と同意)マツダ、悪がデーヴァダッタで逆転していることは有名です.
アジア全域に伝わる日食神話に「黄道、白道の交点にいる暗黒星ラーフが兄 弟である太陽、月を食べる」というものがありますが、インド発祥のものです.
他にも彗星、北極星、すばる他、星の神々が多数神話に登場します.B.C.900成 立のアタルヴァヴェーダに出てくる、黄道27宿(ナクシュトラ)は、中国の28宿 よりもずっと古いのです.(注:この文章間違いかも。中国の28宿は証拠となる
物体がB.C.400頃にしかないだけで、成立ははるかに古いと考えられている。)
このようにネタは豊富ですが、インドは天文民俗学的にはややこしいところ で、後に黄道12宮占星術が入ってくるのですが、これが道順では近いバビロニ ア直輸入ではなく、ヨーロッパ経由のため、星座名や伝説は完全西洋版です.
しかもその、ヨーロッパ版黄道12宮にインド独自の変形がほどこされ、密教を 通じて中国経由で、平安時代の日本に輸入されちゃったものだから、中国版28 宿とヨーロッパ版黄道12宮インド改作版がいっしょに描かれた星曼陀羅が、日
本のお寺にかかっているという事態になるわけです.(詳しくは陰陽道と宿曜道を参照下さい。)
現在のインドでは暦占・星占いが流行中ですが、誇るべき太古のナクシュト ラ占星術はすっかり忘れ去られているようです.
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なつかしい太陽と月・東南アジア
日本から飛行機で数時間の国々の神話は、一般にはあまり知られていません.
東南アジアの創世神話は、原初に広大な水原があり、創造主が甲虫の糞を集め たりして、小さな土地を作ることから始まるものが多いです.太陽、月誕生の 神話は日本のように1つではなく、様々なタイプが伝わっています.(アジアの星の民話参照。)
また土着の神話の他に、隣国の神話が伝わり、脚色されたものも見られます.
特に七夕伝説と羽衣伝説を合体させた物語は、中国〜東南アジア一帯に分布し
ており、その広さやバリエーションをみると、七夕はアジアを代表する星物語なのだとちょっと感激してしまいます.
東南アジアの神話は、遠い世界の物語という感触はなく、子どもの頃にきい た、あるいは考えた話のような親しみがあります.
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数理天文学王国・中国
儒教の国・中国の天文学は一に暦作り、二に天象観測という堅い ものです.星座も独自の発展をとげ、星域がきちんと区分されて全
天をカバーする力作が作られました.「史記天官書」(B.C.1世紀)に 初めての星座表が登場します.
28宿はもう少し古く、B.C.3世紀の春秋時代末期には原型ができ ていたとみられ、壁画などに登場しています.面白いことに、中国 のものは"赤道"28宿なのです.
中国では「天の出来事が地上に反映される」という思想が代々の 王朝で受け継がれたため、日々の地味な天文現象も着実に記録されています. そのため中国の国史は、古天文学世界最強の史料となっています.
もちろん数字の話ばかりではありません.古代中国の創世神・伏義と女禍の 2神の周囲に星座が並ぶ図は、中国における星の信仰の重要性を示しています.
B.C.8世紀以降の春秋時代に道教が広まると、星の神様が色々できました.
北極星である玄天上帝、寿命を司る北斗星君、南斗星君、方位の四神、南極老 人星等です.同じ頃生まれた陰陽五行の思想も、5惑星を5要素に対応させる など天体に関係の深いものです.中国の星神は現世利益が得られるものが多く
日本でも人気が高い神々です.
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世界最大の迷宮へようこそ・日本
(1).伝承の絶対数が多い日本
ある欧米の民俗学者が、「日本の 魔物やら伝説やらの数は、欧米の比 ではない.量が2ケタくらい違う」と述べた話をきいたことがあります.
たとえば市民グループが編集した 茅ヶ崎の伝説という本には、200編 以上の伝承が収録されています. 江戸時代は寂しい漁村だった歴史の 浅い町にこれだけ伝承があるのです
から、日本全国ではたいへんな数に なることでしょう.日本の町はみた ところ、50m歩くごとに1つ、伝説 が収集できるのです.
(2).星の伝承が消える理由
50mおきにある伝承は、多くはとても簡単なものです.今なん時だ、と声がする何時橋、女性が触ると病気がな おる女護が石など、物語が2,3行で終わってしまうので、普通の本には掲載され ません.従って口承がとだえると消滅してしまうものが多いのです.星の伝承 は、こういった小さい伝承が多いのです.
日本神話は天体の神が少ないと言われています.最近、古事記と天体と関連
づける解釈も行なわれていますが、認められるのには時間がかかりそうです.
しかし,「天体神の信仰」というもの自体は、奈良時代から官民を問わず大人気 を博しているのです.その日本人に好かれた天体神は、実は日本の神々ではありません.日本の星の信仰は、大きく分けて2種類あり、これらをよく理解して区別しないと、天文民俗学研究はすぐ暗礁にのりあげてしまいます.
1.陰陽道−−中国の道教と陰陽五行思想を合体させた自然哲学
[四方拝、属星祭、本命星法等]
2.宿曜道−−インドで7世紀に生まれた密教(真言・天台)の占星術
[北斗法、北斗曼陀羅、星供養等]
この2つは元々ライバル関係でしたが、神仏習合が普通だった日本でお互い のおいしい所を吸収しあったため、見た目がとても似ています.日本の星の民 間信仰は、元をただせばこの2つから出たものが多いのです.
(4).日本オリジナルの星の伝承とは?
日本列島オリジナルの星の伝承は、農民・漁師に伝わる実用的な星の呼び名
が大部分です.これは内田武志氏、野尻抱影氏らの研究で網羅されているという感があったのですが、北尾氏のように新たに発掘されている方もおられます.
また、神社に祭られている星の神様がありますね.月読の命や、北極星とされる天御中主を祭る神社はけっこうあります.これらは日本独自の星の神様みたいに思えますね.でも、残念ながらそうではないようなのです.星の神様ばかりでなく、神社というものは、古ければ古いほど、朝鮮渡来人が設立した可
能性が高いのです.各地の一宮のほとんどが、朝鮮渡来の神を祭っています.
月読は、最近の古代史では朝鮮渡来の神説が強く、月というより穀物や海の 神です.天御中主は成立が新しく、明治維新後にはよく妙見菩薩の代用で旧妙 見宮の神社で祭られました.
日本独自の星の伝承を探すのは、なかなかむずかしいことなのです.
(5).天武と晴明
歴史上の天文マニアを調べるのも楽しいものです.
兄の天智天皇に比べ人気がいま一つの天武天皇ですが、古代 史の研究者の間では、気さくで人望があり、政治力抜群の名君 と高い評価を受けています.
天武は、風水の羅盤で戦争の勝利を占ったり、大君の名称を、 北極星を意味する天皇と改めたりの、大の陰陽道ファンです.
いつも百済の陰陽師をつれ歩いており、元々日本神話になかった天御中主を、道教に倣って最高神(北極星)として付け加えた のも天武ではないかと言われて います.その後、陰陽道は日本独自の変化をとげてしまうので、純粋な陰陽五行を知りたい場合は、天武あたりまで遡らなければなりません.
藤原道長につかえた陰陽師・安倍晴明は大変有名です.しかし神通力の話ばかりで、暦を作ったとか天体を観測したとかいう話があまりないので、天文民 俗学的に(?)みるとやや面白味に欠けます.安倍家、賀茂家といった陰陽道の 宗家が朝鮮の渡来人系というのは、重要ポイントです.
(6).妙見
とても日本的魅力にあふれた神様で、正体が何通りも伝わっています.北辰 (北極星)説、北斗七星説、輔星説、妙見菩薩で密教の仏説、北の守護神説etc.
「妙見」という名は仏教の経典「七仏八菩薩所以大陀羅尼神呪経」から出ており、 「北辰菩薩、名づけて妙見という.国土を擁護す..」と書かれています.イン ドでは北極星はドルヴァと言って、妙見菩薩とは対応しません.
妙見菩薩が日本に伝わると、密教で平安時代にさかんに祭られ、それが室町 以降庶民に広まり「妙見さん」とやさしい名で呼ばれるようになりました.この 妙見さんは、仏教の妙見菩薩だけを意味するものではなく、日本の陰陽道の天 帝・北斗信仰も含まれています.お寺と神社がセットになった妙見宮は庶民の 人気を集めましたが、明治の神仏分離で名称変更を余技なくされました.
石仏に描かれている妙見菩薩は、よくカメに乗っています.これは中国の四 天王の北の守護「玄武」と、北の守護・妙見を重ね合わせたものでしょう.
(7).七夕
天帝(北極星)の娘・織女と牽牛の星の恋物語は、中国の伝説が伝 わったものですが、日本の七夕祭りはそれだけではありません.中 国の七夕祭「乞巧奠」が伝わる前から、日本には棚機つ女という巫 女が、水辺で神の降臨を待つという農村の「禊ぎ」の行事があった
と言われています.
両者が合体したのが日本七夕で、タナバタの読みは棚機からきたわ けです.禊ぎですから、川や雨で汚れを落とすのがよいので、日本
の七夕は雨の方がよいようです.
竹飾りも日本流で、中国や東南アジアの七夕では行いません.宮中の 七夕祭は、ちゃんと星を眺めますし、針を供えるなど、中国流に近いものです.なんとお相撲のルーツも、宮中の七夕祭の行事です.日本各地の七夕のバリエーションは素晴らしく、新潟の夜七
夕、東京の七夕馬、川の中に棚を作ったり、餅つきや獅子舞をしたり、七夕だけで分厚い本が1冊書けるくらいです.天文関係では、名古屋市科学館、五島
プラネタリウム、杉並の茨木孝雄氏の調査が知られています.
(8).お月見
旧暦8月15日の中秋の名月もまた、中国・朝鮮から伝わったもので、中
国では月餅を供えます.日本では旧暦9月13日の栗名月に対し、芋名月 と呼ばれました.綱引きをする地方もあります.仏教の放生会も8月15 日ですが、こちらは月は見ないようです.なぜ8月の満月だけがお祭りかというのは謎....のようでしたが、サトイモ(タロイモ)の収穫祭ではないかという
説が最近有力になってきています.
江戸時代には月待行事が流行しました.19夜や26夜の月が昇るまで、 寝ないで宴会をしながら待つ行事です.道教の庚申待ちと関係があるようです が、月齢ごとになぜか密教の仏が対応しており、23夜は勢至菩薩、19夜は如意
輪観音、13夜は虚空蔵菩薩を祭り、修験道の山伏が祈祷します.
(9).小さな星の伝承各種
[降星]世界各地に英雄が星になる話はありますが、星が落ちて来る話は聞き ません.日本は星降りの松や梅、明星が落ちた山や洞窟などがあります.
[星の井戸]昼間でも星が映って見えたという井戸.全国にあります.
[空からふった石]あちこちにあるのですが、鑑定結果はどれも隕石にあらず.
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天文民俗学への招待
過去10年、亡くなる方が多くて人口が減る一方であった天文民俗学の世界も、
最近の民俗学ブームのためでしょうか、ここ2年くらい増加の兆しをみせております.ちょっとでも関心がございましたら、NIFTY-Serve/FSPACEの「星の民
話の部屋」までぜひ遊びにいらしてくださいね.
最後にお奨め文献です.服部完治「天の博物誌」、永田宣男「星の考古館」共に 名古屋市科学館友の会会報「?」、網野善彦他「瓜と龍蛇」福音館書店、「陰陽道の 本」学研、中山茂「西洋占星術」講談社現代新書、「図説占星術事典」同学社、金指 正三「星占い星祭」青蛙房、大林太良「神話の話」講談社学術文庫、菅原晃「インド
神話伝説辞典」東京堂出版、大崎正次「中国の星座の歴史」雄山閣、斉藤国治「古 天文学の道」原書房、野尻抱影「星の文学誌」筑摩書房など.
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