Coffee Break

映画「アルマゲドン」と「ディープインパクト」

(1999.4.10更新)
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■アルマゲドンvsディープインパクト その科学考証
 ディープインパクトは1998年夏、アルマゲドンはそのあとの冬に公開 されたアメリカ映画です。小惑星か彗星が地球にぶつかる、さあどうしよう、 という内容です。どちらもたいへん楽しめました。
 その科学考証について、よく映画評で 言われていますが、どうも誤解が多いようなのでちょっとこの場で 考えてみることにします。
 結論からいいますと、私個人の見解では、科学考証はアルマゲドン の方がよくできてる...といいますか、ディープインパクトがよろしくありません。アルマゲドンは最初からお祭り映画のような うわさが流れてたせいで、軽くみられていますが、可能な限りよく調べたと思います。以下チェック点をあげてみました。


1.月周回軌道を利用せず、いきなり小惑星にシャトルはいけない。
 ランデブー接近するには、同じ方向に飛行していることが必要です。 正反対に飛行していたら、地球近傍でどっちも時速30万kmくらいなんですから 一瞬ですれちがってそれまでです。
 月周回軌道は割と楽にのれます。そのぐるりとまわった点でシャトルは 地球に向かって飛行しているので、危険な小惑星と同じ方向 に飛行していることになりマルです。

 シャトルが月周回軌道をとっていたのはアルマゲドンの方だけ。ディープインパクトの方は、 危険小惑星(彗星だっけ)と同じ軌道をシャトルがとっている設定だが、 円軌道から長楕円軌道へのトランスファー軌道を飛行させるためには、 そのウォルフ・ビーダーマン(すみません名前まちがえてた)彗星が地球の進行方向の逆方向から地球に ぶつかる軌道である必要がある.
 そうでない軌道の場合は、数年という長期間が必要になるか、 またはサターンロケットばりの大推力エンジンをシャトルが搭載し、 無理矢理軌道を変えるか、どちらかになるはずである。
2.超がつく初心者ばかりのディープインパクトの天文同好会
 ディープインパクトの印象が悪いのは、冒頭の天体観測場面がめちゃくちゃ だからです。ほんの初心者の天文ファンにきくだけでも、あれは修正でき たのに。
 まず恒星なんか望遠鏡ではみない。ただの点でおもしろくない、 特に1等星は見ない。望遠鏡は光を集める道具であり、暗い星雲や彗星を みるために使うのだ。また拡大機能もあるので、火星や木星のように拡大 すれば面白いものをみるものなのだ。実際やってみればすぐわかる。
 また、シリウスとアルタイルは同じ季節にみえません。彗星を、絶対同一視野に入らない上に、望遠鏡では異様に明るく見えるメグレズ の見間違いだ、なんてどんな初心者でもいいません。初心者の集まりならともかく 天文同好会という設定で、指導者らしき人まで「アルタイルだ」「シリウスだ」 というのはあまりに悲しい。また、北斗のそばという 超みやすい場所にでた新彗星なら あの小さい望遠鏡で見つけるずーっと前に、はるかに強力な望遠鏡をもっていてそれに命をかけてるたくさんの コメットハンターたちが見つけてます。以下えんえん続くのでこのへんに。
3.彗星の軌道は多数の観測がないと決まらない。
 ディープインパクトの新彗星の確認観測で、天文学者が暫定軌道をだした。 これは正しい、2点以上の観測とプログラムがあれば可能です.しかーし!彗星の暫定 軌道は、非常に誤差が多く実際と大きく異なるものです。たくさんの観測から やっと彗星の本当の軌道が求まるので、最初のはあくまで暫定軌道しか でないのです。その暫定軌道で「地球にぶつかる」と大騒ぎするのは、 ありえないことです。

 あと細かいことですが、彗星名は命名法がIAUで決まっていて、 発見者数名の名字のみ。奥さんの名前はつけられないのよ。 小惑星なら命名権があるけど、命名できるのは軌道確定その他の長い 作業のあとで数ヶ月後になります。その場ではできない。
4.彗星地球衝突は天文ファンならすぐわかる。隠すのは不可能。
 ディープインパクトの小さな望遠鏡で発見できるような明るい彗星なら、 たとえ隠しても他の天文ファンがすぐ発見します。観測報告が送られ、 それがIAUから発表されます。発表されないとしたら、かえって大騒ぎに なるはずです。
 観測報告が集まると、それから軌道が求まります。そして、 ウルフ・ビーダーマン彗星の軌道は、天文ファン大喜びでしょう。 百武彗星そっくり、地球のすぐそばをとおるのですから。世界中が注目する特大彗星として 専門紙や新聞の紙面をにぎわすでしょう。

 観測報告から自分で軌道を計算する人が多数でてきます。そして、いとも 簡単に地球衝突する軌道であることを発見し、世間に発表するでしょう。 彗星の明るさや位置計算で使う値に、ΔRという値があります。彗星と地球 中心との距離です。これが明るさ計算で重要です。ΔRをみれば地球衝突 は一目瞭然です。
 ΔRは天文ファンで、力学の知識がちょっとだけあればだれでも計算できるのです。またデータさえあれば市販の天文ソフトでもできます。

 たとえ、アメリカが公表しなくとも、彗星が地球にぶつかることは、ごく普通の天文ファンの観測と計算から、すぐに世界中が知るでしょう。 ディープインパクトはアメリカと日本のアマチュアを非常に甘くみてます。
 それから、危険彗星は最初っから公表しないとおかしいです。1年前にわかっていれば、アメリカ 以外の国や、民間会社だってシェルター作れたのですから。
5.直径400km内外の小惑星が、衝突20日前にやっと発見される なんてことはありえない。
 すいません、先日までアルマゲドンも20km内外かと思っていました。 訂正します(^^;)。
 小惑星ですが、直径5kmでも木星軌道付近まで近づけは発見可能だし、火星軌道まで 近づけば確実に観測される.アルマゲドンはいきなり衝突18日前に発見 という筋。直径400kmの小惑星ならディープインパクト のように2年前に発見されるのが自然ですね。

 ...と書いたのですが、1つ直前までわからない可能性がありました。 火星の裏側にぴったり入り、地球から全然みえない位置にずっといる 軌道であること。これだと火星をとおりこすまではわかりません。
 しかし、そんな軌道、現実にあるかなあ?
6.小惑星と彗星の表面は真っ黒のはず。
 デザイナーが考えたというアルマゲドンの小惑星表面は、ギザギザの 氷の柱がたって、非現実的。ただ、探査機で撮影された小惑星と違い、 この危険な小惑星は初めて太陽に近づくもの。ああなっていないとも、限らないかも?(冗談^^;)そして、表面の色が黒いところは正しいのです。
 ハレー彗星核に接近したジオットー探査機がとらえたハレー核は、 反射率が低く真っ黒であった。他の小惑星の表面も反射率が非常に低く、 黒いホコリ?で被われていることがわかっている。特にジオットとベガ が撮影したときのハレーの核は、すさまじいジェット噴出中、その状態 でも表面は黒かったのです。ディープインパクトの彗星はちょっと白すぎ。
7.彗星表面でサンバイザーなんかいらない。
 ディープインパクトの彗星表面の太陽がのぼって蒸発が始まるところ は非常にみごとでした。地球から望遠鏡で観測できるほどのジェットが 吹き出るのです。水蒸気といっしょに岩もふきとぶ、それはすごい世界 で、数時間おきに昼夜が繰り返されます。
 しかーし、地球軌道より外にいるのに、バイザーをつけないと失明する ほど明るいはずはない。じゃ月面も氷がはって水蒸気がでたら明るくて失明 するの?たとえ一面水蒸気のジェットがあがっても、大気のない空は 太陽があったとしても真っ暗。だれかあの連中のサンバイザーの根拠を教えてください。 なんか大いなる誤解を視聴者に与えたような気がするぞ..
8.宇宙服の操作は1週間ではマスターできない。
 アルマゲドンで一番へんなのが、1週間の訓練で素人が宇宙服をきて の作業をマスターしていること。1年でも難しい。2年でどうかという くらい複雑で、ほんの小さなど忘れが死をまねくのだ。
 いくら技術者でも宇宙にいかせるという発想はありえない。また、 専門家の現場のかんがいるなら、計測器の値は基地でモニターできる し映像もリアルタイムなのだから、ブルースウィリスは ジョンソン宇宙センターで指導すべきである。
9.直径400km内外の小惑星では、削岩機はアンカー打たないと持ち上がる。
 小惑星では重力は小さい。小惑星としては特大の直径400kmのアルマゲドンの 小惑星、半径は月の1740kmの約1/8〜1/9。重力は質量に比例し、質量は半径の3乗に比例するので、密度は同じと仮定して月の重力の約600分の1の重力と推定される。
 アルマゲドンのように、そこに削岩機をおいて、氷と風化してない岩石の地面に 穴をほってたら、ドリルはすすまず代わりに 削岩機がもちあがり衝撃でとんでいってしまうはず。 まずさいしょに、アンカー穴をうって 本体を固定しなくっちゃ。工事現場でもやってますよね。

 それに対しディープインパクトは自走ドリル型の核弾頭なので、これなら 違和感がありません。(そんなものが製作可能かはともかくとして..) ただ、ディープインパクトの場合、彗星が直径20km内外だから、重力は 月の約500万分の1となり、歩行すら困難な気がするのですが..
10.シャトルの同時2機打上げは無理
 ケネディ宇宙センターの有人打上げ用モニター機器および専用の コンピュータは1種類しかないはずなので、 打上げるにしても数時間はずらさないと無理でしょう。非常停止装置も なしで打上げは無謀です。アルマゲドンでは2機あげてましたが、 片方を別のサイトからあげればよかったかも。
11.ロシア宇宙開発事情 <----私が軍配を決めたのはこれ
 ディープインパクトではロシア人はシャトルにのっていただけ、ほとんど せりふないし、最期に家族もよんでもらえなかった。その後で見たアルマゲドンの 明るいロシア人はとても活躍していたので、なかなか気持ちがよかった。 アルマゲドンのロシア宇宙開発考証はアメリカ映画中白眉のでき ばえである。

 宇宙開発の機器の不調は凍結、温度上昇など温度関連が多く、 アルマゲドンで凍結でいろいろ故障するのはなかなかリアルであった。 非常に故障が多いミールが常宿のロシア飛行士が、すぐにそとにでて 修理を始めるのも、笑えるがリアル。やっぱコスモナウト(ロシアの宇宙飛行士 の呼び名.原音的にはカスマナーフト)は、修理、修理、その次も修理じゃなくっちゃ。 また、ミールの中身はほとんど本物に近く(ボロさが際立っていて いい)、常時燃料+酸素貯蔵があるのは確かで、ミールへの燃料輸送は システム化された無人ロケットが行なうのでとても楽で、使っちゃっても 特に困らないのである。 火事でミールが壊れるのも、何しろホントに火災を起こした ことがあるので、これまたリアルであった(脱出場面はともかくとして)。

 宇宙での給油は、とにかく燃料+酸化剤を打上げることが非常にたいへんな現在、 よい方法である。特に今回の小惑星ゆきのように、人や物が積まれていて 本体が重く、スラスター(小さいジェット噴射装置)をたくさん 使う飛行計画の場合は。宇宙で使う燃料は、NTOと呼ばれる 四酸化窒素かヒドラジンというのが多いが、これらは自着火性がある。 こんなものがポタポタもれだしたら、そりゃあ危険である。で、アルマゲドン ではミールが爆発しちゃったのだろう?しかしヒドラジンを人間がいる 室内にパイプを通して給油....命懸けですな。でもミールならやりかね ない。

 さて、すごい燃料を使うコースをとってるディープインパクトのシャトル はどうやって燃料をもっていったのだろう。うろ覚えなので映画のパンフを 見ると、別タンクをシャトルにしばりつけてもっていってる!よく打ちあがったなあ、これで!こっちも命懸けである。しかしヒドラジンスラスターは地上の ロケットエンジンとは比較にならないほど非力である。宇宙空間に出れば ロケット部分がきりはなされ、シャトル本体だけになるが、それでも速度ベクトルを 大きくねじまげるパワーはないはず。やはりディープインパクトの危険彗星は、地球の進行方向の逆から衝突する軌道だったに違いない。

 ただアルマゲンドンの終盤で、ロシア人飛行士が「アメリカ製(宇宙機器)もロシア製も どっちもタイワン製で同じさ」といったのは、間違い。宇宙開発が金が かかるのは、ネジ1本でも民生品の100倍の精度をもつものを使って いるためだ。Aというランクのもの。これが10倍の精度になるとBになる らしく、無人ものならそれでもいいらしい。しかし、民生品とくに、 中国や台湾製はロシアといえど、絶対ありえない。しかし、その他のロシア宇宙開発 考証がみごとだったので、こんな重箱の隅はどうでもいいのであった。
12.その他
○月程度の距離の小惑星なら1週間で行ける
 ある雑誌で「小惑星にいくには数年かかる。1週間でいくのはおかしい」 というアルマゲドン評がありましたが、1週間でいけるのです。
 アメリカの小惑星探査機は数年かけて小惑星にいきますが、これはランデブーポイントが はるか遠方であり、また最小の燃料でいけるように長く特別な軌道を 設計しているからなのです。
 地球近くの小惑星、それも燃料をけちるなどという問題ではなく、 どれだけ費用を使ってもいいから早くいけ、というなら、月にアポロが いくのに1週間くらいだったように、そのくらいで小惑星に十分到達 できます。むしろ近くの小惑星に接近するのに数年かかる方が力学的に みておかしい。

○異様に装甲が厚いアルマゲドンの宇宙服
 おちる、ころぶ、岩がぶつかる、爆発する.....この中ビクとも しないブルース・ウィリスの宇宙服はすごすぎる(^^;)。墜落したチタンの シャトルよりも頑丈にみえました。

○作用反作用の法則が....
 火器をやたらぶっぱなすアルマゲドンの飛行士。重力がすごく小さい ので、ぶっぱなすたびにキャノン類は後ろにひっくりかえるはずだが... アルマゲドンの小惑星はどうやら異様に重力が強い設定らしい。
 小惑星上の作業の様子については、ディープインパクトの方が 正確でありました。(でも何でサンバイザーがいるんだ?)


13.現実に起こった場合
 さて、最近The Japantimesに「地球に衝突する小惑星は破壊できるか」 という論文のダイジェストがのった。それは次の3つの場合を想定し、 危険小惑星に直径150mの別の小惑星をぶつけて破壊しようとするとどううなるか、 というもの。
(1)小惑星が単体でできている場合。
(2)小惑星が連星の場合
(3)小惑星が小さい小惑星の集合体の場合。
 計算結果は....

(1)は運がいいと危険な小惑星が2つに割れる。しかし軌道はほとんど 変わらず両方ぶつかる。
(2)は、ぶつかった方は粉々になるが、その破片が残った方にふりそそぎ、 ぶつかる天体はやや小さくなるが破壊度は大きく、隕石落下が増える。
(3)は、ぶつかった小破片はこなごな。しかし残りのほとんどはそのまま 生き残り、変化はほとんどない。

 というわけで、映画のようにはいかないとのことです。
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  参考:
似たような視点でDeelImpactを評している英語サイト アメリカのメディアほとんど絶賛なんですけど、珍しいサイトを発見。


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